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名古屋高等裁判所 昭和51年(ラ)186号 決定

抗告人 佐藤隆夫(仮名)

事件本人 佐藤良之(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を岐阜家庭裁判所に差し戻す。

理由

一  抗告人は、主文同旨の裁判を求め、その理由の要旨とするところは、「原審判は、事件本人が財産観念に乏しく無思慮に自己の財産を蕩尽する性癖があるほか、借財にまで及ぶことがあるとして、事件本人を浪費者と認定しておきながら、抗告人の本件申立てを却下した原審判は不当であるから、取り消されるべきである。」というにある。

二  当裁判所は、原審と異なり、抗告人の本件申立てを認容すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

1  事件本人の地位、境遇、素行、財産所有等に関する当裁判所の認定判断は、原審判二枚目表五行目から同三枚表九行目までに説示するところと同じであるから、ここにこれを引用する。

2  さらに本件記録によると、抗告人は、(一)事件本人の実父であるが、事件本人が金融業者から借金したり、遊興に耽つてもその費用等を支払わなかつたため、その都度事件本人に代つて右借財等を支払つてきたこと、(二)現在工員として働き、その収入で病弱の妻および事件本人と橋本光子との間に出生した孫かおる(昭和三八年一〇月四日生)とを扶養していること、(三)事件本人の更生を図るべく種々説得を試みたがその効なく、もはや自力で事件本人を更生させることは困難であると考えていることが認められる。

3  以上認定した事実によれば、事件本人は、財産観念に乏しいため前後の見境もなく財産を蕩尽する性癖があり、借金はいうに及ばず、遊興費欲しさに詐欺、窃盗を働き、さらには抗告人所有の財産を勝手に処分しようとしたことがあるなど、自己の生活を顧みないばかりか、未成熟の子かおるの養育もせず、これを抗告人ら夫婦に任せており、現在みるべき資産を有しないので今直ちに事件本人の行為能力に制限を加える必要がないように見えるけれども、刑の服役を終えて出所したあかつきには再び放蕩の生活を繰り返し、必ずや借財を重ねるであろうこと、そしてそれがひいては事件本人の将来の生活維持を困難にする虞れあることは十分予測しうるところであり、このことが原因して抗告人らに扶養の負担をかけ、やがて抗告人ら一家を悲境に陥れないとも限らない事情にあるわけであるから、この点をとらえて抗告人の本件申立てをもつて単に抗告人の不安解消に資するにすぎないものと即断することはいまだ、事態を十分把捉して事の正鵠をえたものとするには足らないものというほかはない。右のような次第事情のもとにおいては、抗告人の都合により一般社会の取引の安全を害するような事態を招くこともありうるという懸念も根基を欠くものといえ、この際事件本人に対し、これを浪費者として準禁治産の宣告をなすに支障はなくその宣告をなすのが相当と考えられる。

三  以上の次第で、右と結論を異にする原審判はこれを維持し難く失当のものというほかなく、その取消しを求める本件抗告は理由があるから、家事審判規則一九条に従い原審判を取り消し、さらに保佐人の選任をあわせた相当な裁判をなさせるため本件を岐阜家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三和田大士 裁判官 鹿山春男 新田誠志)

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